M&Aとは?
M&A(エムアンドエー)とは
「買収」「合併」などの経営統合以外にも「事業譲渡」「会社分割」「業務提携」「資本提携」「OEM提携」「合弁会社設立」などの複数の会社による提携も含めて「M&A」と呼ばれます。
M&A形態 | 資本移動 | 名称 | 内容 |
---|---|---|---|
提携 | なし | 業務提携 | 技術提携・生産提携・販売提携 |
経営統合 | あり | 資本提携 | 資本参加・相互保有 |
あり | 分割 | 新設分割・吸収分割 | |
あり | 買収 | 事業譲渡・株式所得・株式移転 | |
あり | 合併 | 新設合併・吸収合併 |
M&Aとは、複数の会社が「事業の拡大」「事業の縮小」のために行う経営資源の譲渡・買収・分配・協力を意味しているのです。
「中小企業のM&A」と「大企業のM&A」の現状
一般的にM&Aと言うと・・・
- 日経新聞などに掲載されている大企業のM&A
- テレビのニュースで報道される大企業のM&A
- 海外企業による日本企業の買収
- 日本企業による海外企業の買収
- 投資ファンドによる敵対的買収
・・・
などが、イメージされます。これらは「大企業のM&A」です。
M&A件数の推移
出典:株式会社レコフデータ
M&A金額の推移
出典:株式会社レコフデータ
「中小企業のM&A」を手掛ける上場会社の成約件数
「中小企業のM&A」を手掛ける上場会社の成約件数を見ると
まだ、「大企業のM&A」よりは企業数が少ないものの、高い伸び率を記録しています。もっと言えば、これは3社のM&A仲介企業だけの数字ですから、数百社はある未上場ののM&A仲介企業や銀行や税理士など本業じゃない方のM&A仲介、仲介会社を利用しない直接ののM&Aも含めれば、「中小企業のM&A」は「大企業のM&A」の5倍~10倍の件数が想定され、高い伸び率で今後市場が伸びていくことが予測されています。
「中小企業のM&A」とは
- 中小企業同士のM&A
- 大企業が中小企業を買収するM&A
を意味します。
なぜ、「中小企業のM&A」が増加しているのか?
売り手の事情
後継者不足
中小企業の経営者年齢の分布(年代別)
出典:(株)帝国データバンク「COSMOS2企業概要ファイル」再編加工
規模別・事業承継時期別の経営者の平均引退年齢の推移
出典:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月)
中小企業の経営者年齢がどんどん高齢化しています。
高齢化社会が進む日本では、当然のように経営者年齢も高齢化していくのです。
休廃業・解散件数、倒産件数の推移
出典:(株)東京商工リサーチ「2016年休廃業・解散企業動向調査」
結果として
企業数の推移
出典:総務省「経済センサス-基礎調査」「経済センサス-活動調査」「事業所・企業統計調査」再編加工
経営者が子供に事業を継がせれば、中小企業の「休廃業・解散」は減り、経営者年齢も低下するはずですが・・・
親は子供に事業を継がせたくない
- 経営の苦労を知っているからこそ、同じ思いをさせたくない
- 経営のリスクを取る必要がない
- 安定した職業に就くことを望む
- 子供自身がやりたいことを優先してほしい
- 業界が斜陽産業である
- 子供の経営能力に期待できない
子供は親から事業を継ぎたくない
- 会社経営をすることよりも、安定を取りたい
- 日本の将来に期待ができない
- 自分のやりたいことをやりたい
という高度経済成長期とは違った価値観が生まれており、「子供に会社を継がせる」という選択肢が少なくなってきているのです。
「子供に会社を継がせない」場合に経営者が引退するときの選択肢は
- 従業員への継承
- 廃業・会社清算
- 第三者への譲渡(M&A)
の3種類になります。
「従業員への継承」は、継がせたくなるような能力がある、気持ちがある従業員がいなければならないのでなかなか選択できないものです。
となると
「廃業・会社清算」
「第三者への譲渡(M&A)」
を選択することとなり、「売れるのであれば売った方がお得」という考え方から
「第三者への譲渡(M&A)」が増えているのです。
買い手の事情
売上の拡大
M&Aによる買収を行えば、その会社の売上も、自社(自社グループ)の売上となります。
日本は、超高齢化社会で、人口が減る社会です。
人口推移
出典:2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)
- 2015年:1億2520万人
- 2030年:1億1662万人(6.8%減)
何もしなければ、すべての企業の売上は自動的に6.8%減少してしまうことを意味します。
売上を拡大するために手っ取り早い方法が「M&A」なのです。
- 同業種の買収であれば、自社のノウハウを投入するだけで顧客がついてきますし、スケールメリットもでます。
- 異業種の買収であれば、新規の分野での売上を確保することができ、売上増とともにリスクヘッジが可能です。
成長スピードの確保
インターネットの普及に伴い、一つの事業の寿命が年々短くなっている印象があります。
- 少し前までは、フェイスブックがもてはやされたのに今はだれも使っていない
- 少し前までは、グリーやモバゲーがもてはやされたのに今はだれも使っていない
・・・
これはここ数年の出来事です。
メガバンクが何万人もリストラする時代ですから、時代の変化のスピードに企業が追い付いていかなければ、生き残れない時代になっているのです。
変化のスピードが早い時代には
というのも、「中小企業のM&A」がもてはやされる理由です。
資金がある会社であれば
すでにその分野で成功しているベンチャー企業を買った方が良い
という判断が浸透してきているのです。
なぜ、「中小企業のM&A」が増加しているのか?
売り手の事情
- 後継者不足
買い手の事情
- 売上拡大
- 成長スピードの確保
という背景があるのです。
「中小企業のM&A」と「大企業のM&A」の違いとは?
「中小企業のM&A」と「大企業のM&A」には大きな違いがあります。
違いその1.「中小企業のM&A」は友好的M&A
M&Aには
- 敵対的買収
- 友好的買収
があります。
敵対的買収とは
を言います。
上場すると「所有と経営の分離」ができるようになるため、経営陣が反対していても、株主が自分の株式を売ると決めれば、買い手は株式を買うことができます。株式を買い集めて、株式割合が50%以上になれば、経営陣が反対しようが買い手の会社ということになってしまいます。
これが「敵対的買収」です。
上場することで、市場で株式売買ができることが「敵対的買収」を生んでしまうのです。
しかし、未公開企業の中小企業では、ほとんどのケースで
- 経営者が100%株主
- 経営者と経営者陣のみが株主
- 経営者と経営者の家族のみが株主
です。
「中小企業のM&A」では
買い手企業と売り手企業(中小企業のオーナー社長)が譲渡条件、譲渡後の運営方法を協議し、お互いが同意した段階で売買が成立します。
これは「友好的買収」なのです。
「中小企業のM&A」で「友好的買収」でないのは、売り手企業が元々ベンチャーキャピタルからの投資を受けて作られた会社で、社長は雇われ社長が経営しているようなケースぐらいなのです。
違いその2.「中小企業のM&A」は国内企業同士のM&A
大企業のM&Aは
- 海外企業が日本企業の技術を手に入れるために買収する
- 海外企業が日本企業のブランドを手に入れるために買収する
- 日本企業が海外企業に高く売却する
- 日本企業が海外進出するために海外企業を買収する
・・・
というように「クロスボーダーM&A」が良くあります。
売る日本企業の側にとっても、資金力がある海外企業の方が高く買ってくれるケースが多いのです。
しかし、中小企業のM&Aの場合は
日本企業同士のM&A
が主流になります。
「クロスボーダーM&A」では
- 両国の法的な違い
- 両国の制度の違い
- 両国の文化の違い
- ファイナンシャル・アドバイザーへの報酬
- 弁護士への報酬
・・・
M&Aにかかるコストも莫大な金額になってしまうため、「中小企業のM&A」という金額の規模感(数億円~数十億円)では、費用対効果が合わないのです。
また、それだけではなく、中国などのアジア系の企業から、日本の中小企業の技術力を狙って、買収希望を受けるケースもありますが、日本の中小企業のオーナー企業は「中国に技術を売り渡しくなくない。」という感情も強く、あまり成立しないのです。
違いその3.「中小企業のM&A」は価格が買い手・売り手次第
上場企業の場合は
株式市場で株価がついているので、その企業の「時価総額」というのは公開されています。
上場企業のM&Aでは、「時価総額」がそのまま「買収額」になるわけではなく、買い手企業とのシナジー効果も見込んだ「プレミアム(割増)」価格(10%程度)をでオファーすることになります。ある程度の相場が明確なのが「大企業のM&A」なのです。
未公開企業の場合は
未公開企業のM&Aの企業価値評価方法には
- インカムアプローチ(Income Approach)
- コストアプローチ(Cost Approach)(ネットアセットアプローチ・ストックアプローチ)
- マーケットアプローチ(Market Approach)
があります。
「インカムアプローチ」とは
将来期待される収益やキャッシュフローとその実現のためのリスクを加味して評価する方法です。
- DCF法(割引キャッシュフロー法)
- 配当還元法
「コストアプローチ(ネットアセットアプローチ・ストックアプローチ)」とは
会社の保有している資産で評価する方法です。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
「マーケットアプローチ(Market Approach)」とは
市場で売買する場合の相場を元に評価する方法です。
- 「市場株価法」
- 「類似会社比較法(マルチプル法)」
があります。
いろいろな企業価値評価のアプローチ手法があることからもわかる通りで、未公開企業のM&Aの企業価値評価は困難を極めるのです。
正確な企業評価価値の算定をするかというとそうではなく、前述した通りの試算方法によりざっくりの目安を決めて
売り手がいくらなら売りたい
買い手がこの金額なら買いたい
と思ったら、売買が成立するという形になります。
一般的な「中小企業M&A」の価格相場は
年間の経常利益の5倍~7倍
とされています。
ということになります。
違いその4.「中小企業のM&A」は人的リスクが大きい
大企業を買収したとしても、買収先も大企業であれば、それが理由で
- 社員が会社を辞める
ということは、あまり起こりません。
コストカットで給料を減らされたのであれば、まだしも、オーナーが変わっただけであれば、働く人に大きな影響はないからです。
中小企業を買収する場合には、人的リスクは大きくなります。
- 社長を慕って働いていた社員が辞める
- 親会社の役員が入ってきて、いろいろなルールを作ることに嫌気がさして社員が辞める
- 影響力が強い一人が辞めると、他の社員も辞めてしまう
・・・
中小企業は少人数の組織ですので
- 一人一人の自由度が高い
- 属人的な仕事の仕方
優秀な数名がほとんどの業務を回している
という事態が起こりやすいのです。
ということも往々にして起こりうるのです。
これは「中小企業のM&A」の大きなリスクと言えます。
違いその5.「中小企業のM&A」は「M&A仲介会社」を通して行う
「大企業のM&A」では
「M&Aアドバイザー」を雇用し、M&Aを進めることが多いです。
「M&Aアドバイザー」の役割は
「大企業のM&A」では「M&Aアドバイザー」を付けて、「利益の最大化」を計りながら、投資銀行のアドバイザーまどを通して買い手・売り手との交渉をします。上場企業であれば、株主からの訴訟リスクがあるので、公正にやらなければならないため、専門家による法的率の回避が必要不可欠になってくるのです。
「中小企業のM&A」では
「M&A仲介会社」を通して、M&Aを進めることが多いです。
「M&A仲介会社」の役割は
「中小企業のM&A」では、「買い手」と「売り手」が売買に合意すれば良いだけですので、「利益の最大化」は買い手、売り手自らが行うことになります。取引相手を見つけるために「M&A仲介会社」が動いてくれるのです。
売り手側の「会社を売却する理由」
会社を売却する理由には、大きく分けて5つの理由があります。
- 創業者利益の獲得
- 後継者不在
- 会社の発展と社員の将来
- 選択と集中
- 先行き不安・業績不振
創業者利益の獲得
「会社を売却する」ということは、中小企業の場合は、多くの株式を持つ創業者が一定規模の資金を得ることを意味します。
「会社を売却する」ことで得た資金を他の目的で使う形になり、
- アーリーリタイヤをする
- 不動産を買う
- 別の会社を立ち上げる
・・・
など、様々な選択肢が出てきます。
最近では、中小企業の経営者の中にも、若い方も多く、「会社の規模を拡大すること」よりも、「新しい事業を立ち上げること」の方にやりがいを感じる方も多く、このようなタイプの経営者は、一定規模の会社になったら売却して、新しい会社を起業する資金として利用するのです。
後継者不在
50代~60代の経営者が「会社を子供に継がせたくない。」と考えるケースが増えてきています。
しかし、社内に後継者となる人材がいなければ
という選択肢がでてくるのです。
会社の発展と社員の将来
後継者問題に近いものがありますが・・・
後継者不足だからといって、会社を畳んでしまったら、雇用している社員に対して迷惑をかけることになります。
しかし、会社を売却できて、かつ購入する側の会社がきちんとした会社であれば
- 会社がより発展する
- 社員の給料はより安定する
ことになります。
創業者は会社に愛着があるのは当然ですから、「無くすよりも、良い会社に買ってもらいたい。」という気持ちが働くのです。
選択と集中
複数の子会社、事業を持っている親会社が売却を検討するケースもあります。
親会社が全体的なグループとしての戦略を見直す中で、不要になった子会社の整理という位置付けになります。経営資源の集中と選択は、一定規模の会社であれば、日常的に行われているものですから、会社の整理による「集中と選択」をするために、売却をするという選択も珍しいものではないのです。
先行き不安・業績不振
デフレが続いたことも影響していると思いますが、日本では、経営のスケールメリットが年々大きくなっている印象です。
IT業界などの一部の業界を除けば
- 規模がないと価格交渉力も出ず
- 規模がないと広告宣伝費もかけられない
・・・
など、中小企業・零細企業が生き残るのはどんどん難しくなっているのです。
という不安を抱える経営者は、売れる時に売却して「利益を得る」または「借金を返済する」ことを目的にM&Aをするケースもあるのです。
斜陽産業ほど、大企業の寡占化が進むため、中小企業・零細企業の売却は増加してしまいます。
買い手側の「会社を買収する理由」
会社を買収する理由には、大きく分けて7つの理由があります。
- シェアの拡大
- 売上の拡大
- 利益の増加
- 業績の安定
- 新規事業の開拓
- 役員・社員にポジションを与える
- バリューアップ・シナジーが見込める
シェアの拡大
シェアを拡大するために
- 別の地域の同業種の会社が欲しい
- 同じターゲットの顧客がいる会社が欲しい
- ブランド力がある商品を持った会社が欲しい
という希望が出てきます。
上場企業など大企業では、経営上重要視されるのは「売上」よりも、「シェア」であることが多いのです。
別の地域の同業種の会社がいるところに、新規で支店を作って、しのぎを削って1位になる労力を考えたら、「買ってしまった方が早い」と考えるのは当然なのです。
売上の拡大
売上を拡大するために
- 一定規模の売上がある会社が欲しい
- 優秀な人材がいる会社が欲しい
- 設備や研究開発の機能を持った会社が欲しい
という希望が出てきます。
上場企業であれば、とくに「売上が年々上昇して、成長していること」を対外的にアピールする必要が出てきます。本業の売上が伸びにくいときに、手っ取り早く売上を上げる方法は「買収」なのです。
利益の増加
会社を買収するときには「売上」があっても、「利益」がない会社には、十分な価格がつかないケースが多いのです。
「売上」を重視する会社もありますし、「利益」を重視する会社もあります。
とくに中小企業が買い手の場合には「売上」よりも、「利益」を重視する方が多いです。
業績の安定
- 別の業種の売上を確保できれば、既存のビジネスが停滞しても、業績は安定させられる
- ストック型の会社を買収できれば、毎月何もしないでも一定の売上があるため、業績は安定する
というような考え方で「買収」する会社も少なくありません。中小企業のM&Aでは、ストック型のビジネスモデルの会社に人気が集まりますが、それは「業績の安定」を重視しているからにほかならないのです。
新規事業の開拓
本業に余裕があって、資金力もある場合には
- 別の新規事業をやってみたい
- いろいろな事業を保有したい
というニーズも出てきます。
ベンチャー系の独自性の高い商品やサービスを展開している会社がターゲットになります。
役員・社員にポジションを与える
親会社の管理職のポジションが飽和してくるケースでは・・・
- 買収によって子会社のポジションに幹部候補の社員を送り込める
メリットが出てきます。同業種の規模感の小さい会社を買収して、そこに社員を経営者として送り込むことで、経営・マネージメントの経験を積ませることができるのです。
バリューアップ・シナジーが見込める
売り手企業の経営を見たときに
- 自分が経営すれば、より売上・利益を伸ばせる
- 自社のノウハウを投入すれば、より売上・利益を伸ばせる
と考える方も多いです。良いポテンシャルがあるにもかかわらず、経営者の能力の無さ、会社の設備やシステム、人材の不足によって、得るべき売上・利益が得られていない会社の場合、買収してバリューアップすることで、転売することもできます。
人気がある売り手企業の業種とは?
買い手側の「会社を買収する理由」を見てもわかる通りで
- ストックビジネスの会社
- 今後成長する市場に参入している会社
- 独自の商品・技術・サービスなどを保有する会社
- 一定規模の売上がある会社
- 一定規模の利益がある会社
- 十分な資産がある会社
が人気がある売り手企業です。
- ストックビジネスの会社 → 調剤薬局・ビルメンテナンス
- 今後成長する市場に参入している会社 → IT企業・介護事業者
- 独自の商品・技術・サービスなどを保有する会社 → IT企業
などが、人気案件として、すぐに買い手が見つかってしまいます。
逆に言えば
- 赤字の会社
- 借入が大きい会社
- 斜陽産業
- コンプライアンスに問題がある会社
では、売りにだしたとしても、なかなか「買い手」が見つかりません。